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共に生きるために −CMCCのこれまでとこれから−
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CMCC顧問
梅 澤 や よ ひ |
CMCCは誕生から28年の歳月を歩んできました。2019年の定期総会では、今までの懇親会に代わって、これからのCMCC を考えるためにとミニシンポジウムが開かれ、理事会でも転換期を迎えているCMCCのこれからに危機感を感じておられるのだろうと思いました。初めての試みで、焦点が絞り切れない感はありましたが、皆が抱えている様々な思い、疑問、提案を持ち寄って、毎年一つのテーマで話し合っていくきっかけになればいいなと思います。
設立時のあつい思いや、作り上げていく過程で悩みながら決めてきた枠組みも、四半世紀以上たった現在では身の丈に合わない服のように、着心地の悪い思いをされているCMFも多いのではないでしょうか。時代の変化、社会の変化、ユーザーもCMFも高齢化してきている現状を踏まえて、設立時の理念は持ち続けつつ、新しい局面に何が求められているのか、私たちに何ができるのか、CMF・協力会員そして利用してくださるユーザーの方々も含めて皆で知恵を出し合い、立ち向かう時が来ているように思います。
記憶も薄れてきている現在、立ち止まって設立時からの歩みを振り返り、これから
を考えるステップボードになればと思い、設立からの経緯をたどりながら、CMCCを俯瞰してみようと思います。
1978年に始まった「神学と精神医学懇話会」は神学・哲学・精神医学・心理学の学際的な会で、そこには牧師・神父をはじめキリスト教関係者およびクリスチャンの精神科医・臨床心理士・保健師、また自ら病を負っている当事者まで幅広い方々が集まっていました。
その中のお一人が、議論ばかりしていないで、今苦しみを負っておられる方々を実践で支えて下さいと、
現在のCMCC基金につながる1,800万円という多額の献金を寄せてくださったのです。これに後押しされて平山正實先生、熊澤義宣先生が中心となって、
賛同された方々とともに設立準備会が結成され、2年もの準備期間を経て、1991年5月6日の懇話会席上でCMCC設立が宣言されたのです(「神学と精神医学懇話会」は現在休眠中です)。
「心病む人々と共に」という合言葉を掲げて始まった活動でした。苦しんでいる方や、病を抱えたり、
社会との軋轢
に苦しんでいる方々に寄り添い、声に耳を傾け、共に悩み、共に泣き、共に喜ぶそういう同伴者でありたいと願って始まった活動でしたが、最初はすべてが暗中模索、試行錯誤の連続で、
一つ一つ皆で話し合い、いくつもの失敗や成功を経験しながらルールや枠組みが形作られていきました。
中心になったのは電話相談でしたが、「いのちの電話」が自殺予防の危機管理を目的とした電話相談であったのに対し、顔の見える人間的な対話にしたいと、名前を名乗ることにしました。これも話し合いを重ねながら現在も形を変えて受け継がれていると思います。
面談は、現在ほとんどされていないようですが、カウンセリングではなく、顔と顔を合わせて話をじっくり聴くことが中心で、
お弁当を持ってきたユーザーの方と一緒に食事をしたりもしました。「診察では十分時間を取ってあげられないので、
代わりにCMCCが聴いてくれると助かる」という精神科医の言葉が私たちの励みにもなりました。求められれば訪問も、
病院への付き添いも、主治医との話し合いにも同席しましたが、その都度地区活動協議会の中で話し合い、
検討しながら現在につながっていると思います。精神科医から託されて、毎月の面談で心を整えながらのユーザーの自立を支えているケースもあります。
設立当初は、遠距離からの電話代が高額になる心配もあったので、
手紙での相談にも応じていました。現在も長い期間にわたって手紙でのやりとりが続いている方もあります。
現在ならばさしずめインターネットを介して交わされるメールとなるのでしょうが、まだメールでの対応までは手を広げられていません。
前身の「福音に学ぶ会」は、懇話会にも出席され、準備会から加わりご自身も病い
を負っておられた菅原ぺて呂さんが、当事者の自主的集まりとして始められたセルフヘルプグループです。その後、東京・横浜2か所で毎月藤崎義宜先生を囲んで 「虹の会」として十数名が集まる大きなひろがりになりました。ぺて呂さんが始められた新宿御苑での学びの延長で、
東京では、現在も一年に一度ティールームと合同で御苑での交わりが続いています。
CMCC発足に先駆けて始まった家族会です。当時は社会の無理解や誤解、偏見にさらされて家族は苦しい思いを抱えておられました。
家族を支え、病を抱えた者も、共に毎日の生活を豊かにできるように考えていこうと現在も活動を重ねています。
気軽にお茶を飲みながら話ができる憩いの場を提供したいと横浜相談室の一室で1995年に始まりました。
東京も長年の念願かなって場所が与えられ、温かい交流の場となっているのは前号での特集のとおりです。
CMCCにはCMFのほか協力会員として医師、臨床心理士、弁護士など多くの専門家の方々が加わってくださっています。
医療相談、心理相談、法律相談など必要に応じて専門家が対応しています。
この20年の間の社会の変化の中で、最も大きいものはパソコンとスマホの急速な普及でしょう。
若い世代は固定電話を持たなくなったと言われます。ほとんどの情報は真偽取り交ぜてパソコンやスマホから取れるようになり、
コミュニケーションも仮想現実の中で交わされることも多くなりました。CMCCへの電話相談も、様相が変わってきていると思います。
情報が氾濫し、スマホやパソコンを介してのコミュニケーションが増える中、最後に残るものは何かと考えた時、
そこでは得られない大切なもの、それは血の通った生身の人間同士の温かいふれあい、コミュニケーションではないでしょうか。人は生身の人間同士、
ふれあいを通して癒し癒され、人と人との様々な葛藤や問題を乗り越えていくことで人間としての成長を遂げていくのだと思います。
では、これからのCMCCができることは何なのでしょうか。電話相談だけではなく、面談、めぐみ会、虹の会、ティールームなどを足掛かりとして、
私たちが「共に」ふれあうことを大切にしていくことが求められているのではないかと思います。設立時の理念、それは「共に」という言葉に凝縮されています。
「共に」という言葉には重い意味があります。異なるものを排除せず、互いの過ちをも許し合う小さな日常的な行いの積み重ね
が土台です。
生産性ばかりが重視され、不寛容が覆っている昨今の社会の中で、一人一人持てる賜物は異なりますが、
互いを尊重し、お互いに認め合い、聴き合い、補い合い、支え合って、だれもが自分らしく輝いて生きていけるようにしたい。
そのためにCMCCが社会の中で灯台の灯りのように輝き続けていけるように進んでいきたいと思うのです。
私はこんな夢を見ます。どこかの街の商店街の一角に、シャッターを閉じたお店があって、「CMCCの家」として与えられる。
一階にはカフェ、そこでは虹の会、めぐみ会、ティールームなど様々な集いが開かれ、たくさんの交わりの輪が広がる。
2階には電話相談や、面談、専門相談などの部屋があり、事務局が置かれ、
皆が生き生きとそれぞれが持てる力を出し合って「共に」生きていく社会の凝縮した姿を実現したい。
それは夢物語でしょうか? いいえそうではありません。CMCCに集う皆さんが夢を見、望めば必ず実現できると思います。CMF、
協力会員、そしてCMCCの扉をたたいてくださるユーザーの皆さんと共に新しい時代を開く、
許し合い、支え合う「共に生きる」CMCCを目指していきたいものです。
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