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C M F の 働 き
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愛誠メンタルクリニック
CMCC理事
佐 藤 誠 |
CMF(クリスチャン・メンタル・フレンド)として働いていらっしゃる方たちは、主婦・定年退職された方・パートの仕事をしている方・学生さんと実にさまざまです。しか
し、牧師・医師・臨床心理士・精神保健福祉士などのいわゆる“こころの病"に関する専門家は少ないと思います。CMFのほとんどの方たちは、アマチュア・ボランティアだ
と言ってもよいでしょう。
アマチュアは「amator:愛する」からきた言葉です。これを「素人」と一般には訳していますが、私は「そのことに深い魅カと愛を感じそれを追い求め、それに心から献身する
人」と訳す方が適確だと思います。それは、アマチュア精神は、プロ根性に勝って人の心をとらえるからです。たとえば、プロ野球選手の華麗な守備や豪快なホームランに拍手
を送りますが、それよりもピッチャー・ゴロでも懸命に一塁べースにヘッド・スライディングする高校球児のプレイに感動を覚えるようなものです。
このように考えますと、CMFの方々がアマチュアであるということは、「仕事が拙劣でも仕方がない」とか、「責任も軽い」といった、「どうせアマチュアなんだから」とい
った逃げ口上は言うべきでないということになります。そうではなくて、医師や専門カウンセラーにはなかなか本音を話せない心を病む人たちも、自分たちと同じ市民である
アマチュアのCMFには、心を開き易いということがあると思うのです。
それはなぜかと言いますと、専門家はその人の訴えを聞きながらどのような治療を施すのが適当かを考え、正確に診断するための情報を得ようと質問したりするから、話し相 手としては「聴いてもらえた」というよりは「聴かれてしまった」という印象を持ってしまいます。しかし、アマチュアであるCMFには、診断も治療もないはずですから、気易 く話せるのでしょう。
「アマチュア・ボランティアの人が、電話など使って心の病の人の話しを聴くとか、自殺を防ごうなどとは僭越な…、たかだか毒にも薬にもならない健康食品か、大量出血に対
応するワンポイント効果しかないバンドエイドのようなものだ」というプロ(?)のひとがいます。しかし、「自殺予防の歴史の中で、アマチュアの力を発見したことは、最も
重要な発見である、危機が深いほど専門的ケアを必要としない」というLitman's Lawもあります。私は「一流のアマチュアは、三流のプロに勝る」と考えております。
心の病に苦しむ人や危機状況にある人に対して、その人を「患者」としてではなく、「ひとりの人」として見るかかわりのできるのがアマチュア相談員であると思います。先
日の東京マラソンの時に、心身に不自由を感じながらも走り抜こうとしていた人たちの伴走をしていたのは、オリンピック侯補選手ではなく、アマチュア・ボランティアの方た
ちでした。CMFの方々は悩む人・悲しんでいる人たちの良き伴走者になれれぱよいと思います。
CMFの方々がアマチュア・ボランティアであることは、必要条件ではありますが、十分な条件ではありません。ユーザーの良き理解者・伴走者となるためには、愛だけではな く技術も必要です。ベッテルハイム,B.は『愛だけでは十分ではない』という本を書いています。すなわち、神は完全な存在だからその愛も十分ですが、人間は不完全な存在な のですからその愛も偏っていたり、不完全だから教育訓練を受ける必要があるということです。それでは、どのような教育訓練を受けたらよいでしょうか。
1.「Hearing 聞く」だけでなく「Listening 聴く」ができるように
前者は、ユーザーさんの話を聞き手の価値観や信条・経験・感情に照らし合わせ、取捨選択し、評価し、援助しようとする聞き方を言います。
後者は、ユーザーさんの立場にできるだけ立ち、その人の心に近づき、何を伝えようとしているかを聴き取り、理解しようとする聴き方をいいます。
2.「Answer 答える」だけでなく「Response 応える」ことができるように
前者は、ユーザーさんからの質問に対して正しい知識や情報を与えようとする聞き方を言います。
後者は、質問という形でユーザーさんは不安や恐怖の気持を伝えようとしたり、自分の考えを支持して欲しいとか、確かめようという気持を持っていることを理解する聴き方
をいいます。
3.沈黙を聴く
ユーザーさんが話の途中で黙ってしまったとき、沈黙しているから声は聞こえませんから答えようがありません。
しかし、しゃべることができなくなったユーザーさんの心を聴こうとするならば、沈黙こそよくその時の思いを伝えてきているはずです(沈黙は聞けないが、沈黙を聴くこと はできます)。
4.その他
@ 善意からとはいえ、世話を焼きすぎて、ユーザーさんの自立心を依存心に変えてはならない。
A カウンセリングの先行学習があるために、積極的傾聴が必要な時に消極的受動になってしまってはならない。
B 危機介入すべき段階なのに、共感的理解に固執してはならない。
C ユーザーさんが語り終わるやいなや、待ってましたとぱかり人生の先達ぶってお説教してはいけない。
D 等など
訓練すべきことは、枚挙にいとまないほど沢山あります。しかし、これらをすべて学習し、身につけてからでないと援助活動をしてはならないというわけではありません。その
ようなことをいったら、CMFはひとりもいなくなってしまいます。活動しつつ、学びつつ、個人的善意をも越えてユーザーさんを理解し、支えていくことが、CMFの働きでは
ないでしょうか。
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