藍生ネット  2002年表紙写真集  −花と詩歌

安達 美和子(あだち みわこ)

2002年4月から表紙の写真を撮りはじめて、一年がたちました。
その花たちを集めて、皆様にお届けします。俳句と短歌と詩の香りをそえて、これらの花たちが再び息づき始めますように。
(俳句は主宰の句集から好きなものを選ばせていただきました。)


水仙
1月 水仙
  水仙のひとかたまりの香とおもふ   杏子(*)

蕗の蕾
3月 蕗の薹
  火を使ふことのゆたけし蕗の薹    杏子(**)

紅梅
2月 紅梅


  花満ちて句仇のまた恋仇    杏子(*)
桜と鳥
4月 桜

くら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり   馬場あき子

馬場あき子のこの短歌から、心を寄せている桜の木のことを思い出しました。樹齢300年のその枝垂桜を初めて見たとき、まるでお能の世界だと思いました。立姿の美しさ、枝々の張り。一本の桜の中で老いと若さの華やぎが同時に演じられている。人もまた、老いゆく時間の流れと水流の音ひびく、ただいまの時間を生きていく。

十薬
6月 十薬
  十薬をコップに挿して書きはじむ   杏子(*)

 
5月 藤
未央柳
7月 未央柳

昼顔反歌

吉原幸子

すべての女は昼顔だ
皿の破片をなきながらつなぐこどものやうに
いぢらしく
心と肉をつながうとする

いふことをきかない肉に
眉をひそめながら 心をはりつけてしまふ

でなければ
いふことをきかない心に
ふるへる指で 肉をはりつけてしまふ

すべての女は娼婦だ
すべての女は聖女だ
鍵と鍵穴との雑居だ


心の突起は肉の窪みに
肉の突起は心の窪みに
かたつむりのやうに 独りのなかで交り合ひ

すべての女は
男たちから遠く ひそかな昼顔だ


8月 昼顔

吉原幸子の昼顔一連の作品はL・ブニュエルの映画に寄せた作品です。
そのテーマは、彼女の分裂の感覚、日常性を生きえない魂の嘆き、女が女であるときの罪の感覚と共通するものがあったようです。20代だった私はその鋭い言葉につきさされながら、共感したことをなつかしく思い出します。
花の昼顔はどこにも咲いていて、さりげなくて好きな花です。



9月 棉の花
釣船草
10月 釣舟草
冬桜
12月 冬桜
紅葉
11月 桜紅葉
  午後となるさくらもみぢのあかるさに  杏子(**)


都会の一隅の緑豊かな女学校に勤めながら、仕事で始めたデジカメ歴が2年になりました。学校の築山は季語の宝庫で、1月から6月までは、そこでいただきました。7月から12月までは、棉の花は我家のベランダで、その他は連れ合いとの散歩で出会ったものです。花は咲く時期を待っていてはくれません。あっという間に過ぎてしまったり、思いがけず早く見つけたり。自然のリズムは不思議です。これからも、歳時記にそって、草木花を探すささやかな時を楽しんでいこうと思います。

(*)黒田杏子『一木一草』 花神社 より
(**)黒田杏子『木の椅子』 牧羊社 より
馬場あき子『桜花伝承』 牧羊社 より
吉原幸子『吉原幸子詩集』現代詩文庫56 新潮社より

文と写真:安達美和子


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