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黒田杏子
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あれは何虹といふもの冬の虹 那珂川の川上に顕つしぐれ虹 川上に寂かに消ゆるしぐれ虹 もう見えぬしぐれの虹をなほも見て 母と子のこころに二重しぐれ虹 くろばねに母と見つめししぐれ虹 おくのほそ道くろばねのしぐれ虹 ゆつくりといそがむ二重しぐれ虹 那珂川のしぐれの虹をまなぶたに なつかしきこの城下町しぐれ川 常念寺さまの句碑までしぐれ傘 ちちははの時雨を聴きてやすらかに 小夜時雨父に傳く母のこゑ 終戦のその前の年しぐれ虹 句帳手にしぐれ聴く旅人われ等 しぐれ虹くぐりゆけ旅人われ等 疎開者の庭返り咲く桃李 割烹着の母いきいきと返り花 戦果てたる返り咲く花の数 返り咲くま白きつつじ緋のつつじ |