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黒田杏子
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どこまでも白き往還終戦日 まばゆきは殺生石の雲の峰 雲の峰ゆつくりいそぐこののちも 杉崎文子さんより 木に完熟の朝摘みのさくらんぼ 玉蟲の肩にとどまる誕生日 雑草園にて秘蔵の 玉蟲の小筥を賜ふイソ夫人 往還に出る玉蟲が堕ちてくる 那智轟音玉蟲いつせい飛翔 ちちははにをとうとの編むほたる籠 ほたるとぶまつくらがりの屋敷川 数珠つなぎとはまぶしかり真夜螢 ほたる待つ大榧の木と小流れと ほたる舞ふ夜は声立てず青葉木菟 おくのほそ道くろばねの田のほたる 箒川ほたる散華といふ刻を ほたる放つ青蚊帳にまた白蚊帳に 兄のこゑ降る螢火となり我に ほたるくる噴井の音のほとりより 生きてあれば岸にほたるの雨後の川 螢火となり還りきし兄のこゑ |