![]() |
|
黒田杏子
|
九月七日 97歳寂聴先生と対談 五句 午後二時の嵯峨野僧伽の鉦叩 人拂ひして長き夜を書き継がれ 筆擱かぬ尼僧秋灯高く高く なにはともあれ稲妻を招き入れ 寂庵の木戸に閂稲光 池内 紀先生 78歳 三句 霧のミラノの消印の繪はがきも 稲光手書き人生仕舞はれし 須賀敦子池内紀霧の奥 81歳の秋 十二句 友のありていちじくの荷のけふもまた 十五夜のいちじく十五もぎ供ふ いちじくを水菓子としてふたり棲む いちじくの甘煮子どもの居ない家 月に供へしいちじくを割る夜更け 老人の日や稲妻を待つとなく ちひさな部屋に巨きな机稲光 アーレント読む夜と決める稲光 金輪際一歩も引かぬ稲光 聖繪のをとことをみな稲光 引き返す道無かりけり稲光 弓町の草に露草稲光 |