藍生ロゴ 藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


いち日の疲れいとほし梅雨の月

(愛知県)三島 広志

 「藍生集」の選句にとりかかる時はともかく心身のコンディションをととのえ、一ヶ月のうちの最良の刻に持ってゆくようにしている。ともかく81歳の私にとって、「天職」と思える選句ではあるが、その作業はつぎつぎと押し寄せてきてとどまることがない。日経新聞俳壇と新潟日報俳壇はほぼ四半世紀、在職中から毎週担当。このほか各地各種の俳句大会の選者を引きうけている。ことしからは草加市の国際俳句大会も「おくのほそ道330年を記念してスタート。しかし、ともかく、この「藍生集」は「藍生」存続の生命線である。前節が長くなったが、この三島広志さんの句に対面したときは感動、涙がにじんできた。ともかく、作者は惜しみなく働き、今日も一日を了えた。ふと仰いだ空にはまどかな梅雨の月。三島さんは永年にわたる一頁の連載コラムの執筆者。人間のいのち、身体と生命にかかわる仕事に打ち込んでこられた。そのような専門職にたずさわる人の「疲れいとほし」なのである。三島さんはいま第一句集を準備中。「俳句とエッセイ」牧鮮集投句を経て、「藍生」創刊以来のメンバー。第一句集のタイトルを『天職』とされるよう、私は提案している。創刊30周年の来春には刊行予定。「藍生」の皆さんにぜひお読み頂きたい。



蛍火の蛍火に添ふ死の匂ひ

(石川県)小森 邦衞
 塗師小森邦衞展が各地で続いている。20歳で輪島漆芸技術研修所に入所。いまやこの国の漆芸のトップ、即ち世界の漆アーティストの頂点に立たされている。すでに句集『漆榾』も出され、俳壇での評価もゆるぎない。その人の蛍の句。この句の世界こそ小森邦衞本領発揮の世界。邦衞ワールドの核心なのだ。



ふりむかぬ覚悟で開くこの日傘

(千葉県)北原未奈子
座五が日傘かな。であれば平凡。この日傘と置いて止めたところが北原未奈子の句なのである。この人も62歳。ずっと注目してきたこの作者に私は逢ったことは無い。「藍生」もついに30年の誌齢を刻んできたのだと思う。


10月へ
12月へ
戻る戻る