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黒田杏子
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草木界満月世界春雪界 春雪や旧き手紙の束を解き 春雪の重し深しと山廬守 引越し片づけ 記憶谷追憶運河牡丹雪 黒髪の高浦銘子雛の間 有美銘子正子文子と雛の間 雛飾る瀬戸内寂聴九十二 らふそくの灯に白加賀と紅千鳥 本郷の木の芽草の芽こころの芽 牡丹の芽五株を置きて去る日なり 花を待つ句座の畳を拭きあげて 花を待つこころとなりて花を待つ 花を待つかなしき手紙読み了へて 引越してきて東京の花を待つ 三月十九日 われらが出井孝子さんは 蒼穹をゆく引鶴の先頭に ゆつくりとゆける場所まで春の闇 本郷の弓町の初櫻かな 花の闇人を憶ふといふことを 花びらの山姥の夢よぎりけり 花びらのくる月山の暁のいろ |