aoilogo2009年8月藍生主宰句
囮 鮎
黒田杏子

 天井の梅雨の鼠と老夫婦
 ぴかぴかの泰山木の夏落葉
 ほたる待つ田の闇まなぶたを流れ
 ほたる火や屋敷をつつむ那須野の木
 ほたる待つ還らぬひとを待つやうに
 ほたる来る見知らぬ家の灯の消えて
 ほたる火や兄の遺せしインク壺
 鮎釣つてきたる老人ほたる呼ぶ
 母を診る兄明滅のほたる籠
 さくらんぼかなしき手紙添へられて
 鮎の川火を焚く解禁五分前
 火を熾す母鮎に打つ父の串
 ふるさとの川は那珂川鮎の川
 囮鮎など眼の端に靴を脱ぐ
 ちちははの那須野ケ原の梅雨の月
 


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