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第二十一回 九月・愛知の藍生だより

写真・ 文:三島広志
介護の人々 Sさん 65歳 女 元家政学講師 脊髄小脳変性症

  彼女もまた同じ病気。孤発、つまり遺伝的ではないタイプである。十年前、突然の失禁と転倒で発症した。その時、股関節を折り、人工関節に交換。数年前、呼吸困難になる。現在、酸素吸入。人工呼吸器。中心静脈栄養の点滴。胃瘻による栄養補給。さらに24時間点滴。まるでICUさながらの状態で在宅介護を受けている。彼女の可能な機能は目とまぶたを動かすことだけである。しかし意識はきわめて清明。生き抜きたいという意思を家族も尊重している。介護の中心は夫と娘。夫は元国立病院の役職だったお医者さん。主治医はその部下で、娘婿は大学病院の医師。恵まれた環境ではあるが、夫や娘の献身には並々ならぬものがある。この家族を見ると延命治療に否定的だった主治医も自らの主義を改めざるを得ないとメールしてきた。Sさんは料理を大学で講じていただけあって料理番組を観るのがお好きなようであるが、彼女の口には何も入れることはできない。誤嚥性肺炎が怖いからだ。たまにアイスクリームなどを一滴二滴と舌に乗せてもらっている。

木曾川堤から見た岐阜川島町

円空縁の音楽寺

 夕暮れの木曽川。Sさん宅の裏は木曽川で対岸は岐阜県の川島町。三角州の川中島である。手前の森には梟が棲む。私は一度だけ羽ばたく猛禽を見ることができた。

 この辺りは円空が滞在した場所。古い農家にも円空仏が秘蔵されているらしい。

 音楽寺にはたくさんの円空仏が祭られ、村人が管理している。

   松籟に紛れむとして秋の蝉  広志

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