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第九回 9月・東京・国分寺の藍生だより

Ishibashi Kumiko: 平成8年、藍生入会。東京都国分寺市在住。立川から国分寺へ、と多摩在住30年。現在、常時参加の藍生の句会は、茜会・土曜セミナー、新百合AOI倶楽部。




東京では、23区以外の地域を「多摩」と呼びます。武蔵野の平野部から奥多摩の山間部までの広い地域。
私の住む国分寺は、西に奥多摩や丹沢、富士山をのぞむ、緑と水と歴史の町です。吟行句会に人気の武蔵国分寺とその周辺を紹介いたします。
この地へ、虚子とその門人による「武蔵野探勝会」が、昭和9年6月3日に訪れています。


桑蔵の中の暗さや桑を見る   虚子

末の子は長女に負はれ飼屋かな 立子

桑やりて蚕棚は青くなりて行く 青邨



史跡よりも、蚕飼の方に興味を持っての吟行だったようです。無論、今は蚕を飼う農家はないものの、一帯は今もその面影を残しています。
9月の初め、藍生の句会仲間3人と、吟行を兼ねての写真撮影をしてきました。





金堂跡



武蔵国分寺の金堂・七重塔・僧坊などは、鎌倉に攻めのぼる新田義貞によって焼き払われた、と伝えられ今は残された礎石に秋草が生い茂るばかり。



   草の実の歩けば爆ぜる寺の跡 通子




本堂は歴史的な価値はないものの、境内は万葉植物園となっており、万葉集の歌とゆかりの花を四季折々に見ることができる。門の脇の百日紅は、樹齢400年になるという。この本堂を借りて虚子一行は句会をしている。



   はちすの実とんでとっても良い天気 正子


本堂

万葉植物園の9月の花から


 女郎花  秋海棠   黄釣舟   蓮の実

仁王門と薬師堂

 

本堂の西側にある薬師堂の本尊は国の重要文化財の薬師如来。仁王門をくぐり、石段を上がると美しい甍のお堂が見えてくる。虚子の時代も今も、近隣に住む人たちに愛されるているお堂。除夜の鐘の鳴り響く大晦日、年一回のご開帳の日は賑やかだ。



お鷹の道

江戸時代、徳川家のお鷹場があったことから、名付けられた。
崖(武蔵野ではハケという)からの湧水をあつめた流れは、やがて多摩川にそそぎ、東京湾へ向かう。上の写真の流れの水は寺内から湧いている。



下の写真のつきあたりもまたハケの水の湧くところ。全国名水百選に選ばれており、水を汲みにくる人が絶えない。流れのそばで清水に洗いあげた野菜を農家が売っている。国分寺の名産は柿。秋が深まると、柿が山積みになる。

 

   新涼のきれいな水を賜はりぬ 玲子



名水



尼寺跡



武蔵国分寺の西、府中街道とJR線をはさんだところに、国分尼寺の跡がある。今は公園になっているが、その広大さを考えると、天平の頃は女性の力も大きかったと思われる。

 

 



鎌倉街道と思われる切通しが保存されている。緑のトンネルは、四季それぞれの散策に楽しい。


伝鎌倉街道


をみならに蜻蛉行きつもどりつす 玖美子





都立武蔵国分寺公園
武蔵国分寺とJR中央線の間の広大な公園。今年整備が終ったばかり。芝生の広場、武蔵野の林など、市民の憩の場になっている。人工の滝のある池には、カワセミが棲みつき、鴨が子育てをする。




「武蔵野探勝会」の資料については、高田正子さん(神奈川)にご協力いただきました。

*写真はクリックすると拡大表示されます。
写真、文:(c)石橋玖美子
虚子、立子、青邨の句:「武蔵野探勝会」の資料より


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