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第一回 十一月・島根(出雲)の藍生だより

写真と文:滝川 直広さん
Takigawa Naohiro:1967年3月生。藍生には今年7月末に入会。とあるパーティーで湯町浩子さんに出会って誘われたのがきっかけ。俳句歴は2年3カ月だが、最初の2年は独習。松江在住は仕事のためで滞在1年余。単身赴任。家族は京都在住。



 十一月といっても旧暦ではまだ十月。出雲は神在の月である。旧十月十日にあたる三日、出雲大社(大社町)近くの稲佐の浜では、各地からの神様をお迎えする神迎えの神事が行われた。海に向かって神職が祝詞を奏上した後、神々が乗り移った榊(ひもろぎと言う)を、白い絹垣で覆い、大社まで1.5キロを歩いた。神様を送り出すときも「神等去出(からさで)」という神事でお別れする。松江市の北、鹿島町にある佐太神社では新暦の11月20日から25日を、やはり神様を迎え、送る「神在(じんざい)祭」としている。佐太神社で神様を送り出すころの天気の荒れを「お忌み荒れ」と、出雲の人たちは呼んでいる。ちなみに東西に長い島根県は旧国名にちなみ、県の東半分を「出雲部」、西半分を「石見部」と呼び習わしている。


静かなたたずまいを見せる塩見縄手
松江城松江城
松江城天守閣。登れば市内が一望できる。


 市の中心部、城山に天守閣がそびえる。千鳥城とも呼ばれる。天守閣周辺には桜の木が植えられており、日本のさくら百選にも選ばれている。市民の花見の名所になっている。夜間にはライトアップもされており、昼とは違った美しさがある。
城山にはそのほか、松江藩が殖産のために植樹を振興した椿が残っている「椿谷」があり、市民の格好の散策場所。藍生しまねも八月は城山で吟行句会をした。


 
 昼の蛾の竹幹にゐる暗さかな   直広

 城山の周囲から市内を巡る堀川には、遊覧船が運航されている。高さの低い橋の下をくぐるときは、電動で船の屋根が下がり、乗っているお客さんは船にはうように身を低くしなければならない。
 城山の北には江戸時代の武家屋敷や小泉八雲記念館、小泉八雲が1年ちょっと暮らした旧八雲旧居が残っている塩見縄手という一帯がある。観光客でもっともにぎわうところだ

宍道湖の日没 

 日没は年中見られるが、やはり美しいのは空気が澄んだ秋。松江・宍道湖畔から見ると、ちょうど湖に夕日が沈んでいく。湖畔にはカメラ片手のちょっとした人だかりが出来る。美術館は午後6時半までが開館時間だが、3月から9月までは閉館時間を日没30分後にしている。全国でも閉館時間が「可動」というのは珍しいだろう。


 

籾を焼く煙もろとも夕焼けぬ  真理子

 

宍道湖の日没 
日没寸前


撮影:原真理子

 上に鼓、下に冬の字で「どう」と読む。大人2人で抱えるほどの大きな太鼓のことで、11月3日、鼕をすえた各町内の屋台(山車)が松江城下を練り歩く。それが鼕行列だ。今年は12町内と3団体が参加した。ひとつの屋台には大きな太鼓が二張りまたは三張り据えられている。そばに行くと、本当に胃が振動するのが分かる。各町内とも太鼓をたたく固有のリズムがあり、笛や鉦の音がそれに和する。今年は出発前、県庁で屋台が一同に集まり、観光客らに太鼓をたたかせていた。自分で本物の鼕が打てる良い機会だった。
 松江では10月に入ると、夜、各町内で鼕の練習が始まる。風にのってきた太鼓や笛の音を耳にすると、秋の深まりを感じずにはいられない。そして、この鼕行列が終わると、出雲に冬が訪れるのだ



鼕

鼕を打つ外国人。鼕を持つ各町内は人手不足に悩んでいる。





貼り替へし障子に鼕の響きけり  真理子
ゆりかもめゆりかもめ
 宍道湖と中海は、毎冬、2万羽以上の水鳥が越冬に利用している。日本海側では有数の越冬地だということで、国際的に湿地を保護する「ラムサール条約」に登録しようと、県などが動き始めた。このゆりかもめも宍道湖に冬の風情を添える。地元は毎朝、えさをやっている人もいる。

撮影:原真理子

柿すだれ柿すだれ
撮影:原真理子

 出雲は柿の名産地。富有柿のような平たい柿ではなく、縦にやや長い柿で、地元では西条柿と呼んでいる。松江市の東、東出雲町畑地区では晩秋、幾重もの見事な柿すだれが見られる。柿を干す場所は、そのためだけの特別の建物、三階建ての「柿小屋」だ。


  

柿すだれ君主のごとく南面す  直広
 

*写真はクリックすると拡大表示されます。
文中に撮影者名のない写真、文:(c)滝川直広
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