乙女峠の由来
1 仙石原の農家に源蔵という父親と暮らすひとり娘がいました。
名を乙女といい、村一番の器量良しでした。病弱な老父をいたわり、
家事は言うまでもなく、畠仕事にも精を出して働く評判の孝行娘でし
た。乙女が17才になった年源蔵は持病が進んで寝たきりの日が多く
なりました。ある夜ふと気がつくと乙女がそっと床を抜け外へ出て行き
ます。近所へお針のけいこにでも行ったものとあまり気にもしないで
おりましたが、次の日もまた次の日も夜中になるとそっと出かけます。
そのうちに村人の間に 乙女に男ができて毎晩通っているそうだ という
うわさが立ち、このことが源蔵の耳に伝わってきました。
ある夜のことです。源蔵が寝つかれないまま目を閉じていると、乙女が
そっと家を出て行きます。寒い晩でしたが、数日来体の調子が快方に
向かい起きられるようになっていましたので、思いきって雪の足跡を
たよりに娘の後を追いました。足跡は峠を越してまだ続いています。
それをたよりに峠を下りかけますと雪だるまの中に娘が倒れています。
すぐに助けたいと思いましたが、親に内緒で勝手なことをする罰だと
横目で見ながら行く先を確かめたいと足跡をたどりました。
足跡は峠を下って竹の下の地蔵堂の前で止まり、そこから引き返して
いました。堂守りに尋ねたところ以外にも 3ケ月前から毎晩参拝に来る
娘があり、自分の命を縮めてもよいから父の病気を治して下さい。
一心に祈っていたが今日が丁度100日の満願日になる。と教えて
くれました。 事の一切が判った源蔵は、大急ぎで引き返し娘を抱き
起こしましたが、既に冷たくなっていました。
源蔵は今さらのように自分の浅はかな考えを恥じて泣くばかりでした。
村人も伝えを聞いてこの峠を乙女峠と呼んで霊をなぐさめました。