THE 60'S TOURING CARS (モデルカー・レーシング編)
● ニッサン・シルビア(三共模型)
1960年代のレース・シーンを振りかえって見ますと、なんといってもル・マン24時間レースを中心とした“フォード VS フェラーリ”に代表されるプロトタイプ・カーが主役でありました。しかし、忘れてはいけないのが、普段私たちが町で見かける乗用車をチューンし戦っていた“ツーリング・カーたち”ではないでしょうか。 そんなツーリング・カーを主にして“モデルカー・レーシング”を作りつづけた模型メーカーがありました。 そのメーカーとは、「三共模型」であります。古くは、1960年代初期に「マルサン商店」とならんで、プラモデルの創世記を作り、あの“1/150ピーナッツ・シリーズ”で展開された第2次世界大戦用戦闘機の数々は特に傑作ぞろいで、私もいろいろ作らさせていただいた記憶があります。さらに、30円という当時でも破格の価格が今でも印象に残っております。 そんな三共模型が、1965年の“モデルカー・レーシング”の大ブレークに合わせて、市場に送り出しのが、1/24スケール「ニッサン・シルビア」でありました(右の画像は、1966年の鈴鹿1000kmレースに長谷見/堀田のドライブで出場し総合7位となった、ワークス・ニッサン・シルビアであります)。 この画像は、もちろん“シルビア”のシャーシーであります。なんとも、いにしえが漂う存在感ではないでしょうか。材質は、アルミなのでしょうか。また、“青”の「マブチFT−36モーター」がなんとも懐かしい限りであります。ところで、この三共模型製「シルビア」には、当時2種類のシャーシーが存在していたはずであります。 右の広告を見てみますと、次のような解説が書かれておりましたので引用させて頂きました。 レーシングハイクラス
上の解説を簡単に申しますと、「ゴールドハイクラス シルビア」は、前後輪とも“ボールベアリング”を軸受けに使用しており、「ハイクラス シルビア」は、前輪に“オイルレスメタル”を、後輪には“ボールベアリング”をそれぞれに使用しているということの説明であります。しかし、当時から“東洋ベアリング”や“日本理工スライドベアリング”との共同でモデルカーレーシング用ベアリングを開発して、商品化するというなんとも感心させられる熱心さでありました。
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ところで、1965年発行の私のバイブルでもあります秋田書店発行の土方健一氏著作「モデルカー・レーシング入門」にこの三共模型製「シルビア」について解説がありますので、再び引用させて頂き進めて行きたいと思います。 |
ダットサンをベースにしたニッサンのシルビアは、イタリアンラインのデザインで、性能、デザイン共すぐれたものを持っています。国産車も年々性能の良いものが発表されてゆきますが、このシルビアも、スポーツクーペとして日本の道路事情にあった傑作車だと思います。これは性格としてスポーツカー的性能よりもむしろ居住性に重点をおいたグランツーリング・タイプで、日常の足として充分使える用途を持っています。 ただレーシングモデルとした場合に原型が小さい車なので、どうしても小型のモデルになり、有効ホイールベースは104mmありますからこれは充分としても、トレッド最大幅が57mmしかなく、カーブでの安定性を欠くきらいがあります。このような車の場合は、スケールを1/23にし、+5%の最大許容度をとって、車幅をある程度広げるようにすれば、かなり性能は違ってくると思います。 また、ボディがABS樹脂で、最大1.5mmくらいの厚みがあり、さらに室内の座席部分も厚く丈夫に作ってあるので、ボディ全体がかなり重くなり42グラムもあるので、重心の高いデザインに加えて頭が重く、それにトレッドがせまいので、カーブでの安定性はあまり良いとはいえません。これを救う方法としては、タイヤを柔らかいスポンジタイヤにし、フレームの下面20グラム位の重りをつければかなり効果があると思われます。 モデルカーの場合はスケールに忠実に作るということは一番大切なことですが、原型の車が小さく、かつ純粋のスポーツレーシングの車でない、普通のサルーン的性格の車でしたら、スケールダウンする時に多少のアレンジは必要だと思います。ボディの仕上げは大変美しく、原型の感じを良く出しています。細いシャープな線も良く出ていて、型の製作技術の優秀なことがわかります。 シャーシーは、標準型のレイアウトですが、肉の厚いアルミフレームを使っており、さらに下面でL字型に曲げているので剛性を増しています。後部軸受けに特製のボールベアリングを使っています。これは丸くプレスされた鋼板の中にボールを入れたもので、大変簡単にフレームに取り付けることができます。 クラウンギヤはこれもプレス型ですが、歯型はきっちり出ています。 モーターはFT−16とFT−36の共用になっていますが、このトレッドの幅ではとても36のトルクに応じきれないので、16を使った方が無難です。なお、前部軸受けにはオイルレスメタルを使っているのは親切な設計です。全体としてこのシャーシーは精度も高く、堅牢さもありますから、ボールベアリングの軸受けとあいまって、かなり応用のきくシャーシーだということが言えます。 1965年12月25日 秋田書店発行 「モデルカー・レーシング入門」より
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「モデルカー・レーシング入門」を読んでおりますと、三共製「シルビア」のモデルカー・レーシングとしての適性について、かなり酷評されていることがこの文章で読み取ることができますが、当時小学生であった私もこの評価については同意見でありました。今でこそ、車種選定がマニアックだった言えるのでありまして、当時は、なぜにコーナーリングに不利な車幅の狭い車種選定をしたのかが問題であり、このような酷評を生んだのだと思われます。例えば、田宮模型製「プリンスR−380」は、なぜに同型シャーシー搭載「エルバ・マクラーレン」に対して優位に立てなかったのかの問題と似ているところがあります。それは、ボディの重心位置が高かったプリンスが全体バランスにおいて、エルバに勝てなったのが原因でありました。
しかしながら、三共模型の「ニッサン・シルビア」は、実車の雰囲気を大変良くつかんでいる正に“絶品”でありました。その流れるようなラインは、なんともイタリアンしており、あの“ランチャ・フルビアHF”を連想させずにはいられません(右の画像は、ランチャ・フルビア・ラリー1600HF)。 それらを総合して、この三共模型製「シルビア」は、60’sモデルカー・レーシング史において忘れることが出来ない逸品といえるのではないでしょうか。 |
● プリンス・スカイライン2000GTB(三共模型)
もし・・・、という言葉が許されるなら、もし、もっと長くブームというかたちが続いていたのであれば、今回紹介する「1/24スケール プリンス・スカイライン2000GT」は、確実に、「シルビア」に次ぐ「モデルカー・レーシング」キットとして世に出ていたのではないでしょうか。 この特集は、三共模型製 モーターライズキット1/24スケール「プリンス・スカイライン2000GT」のボディを使いモデルカー・レーシングに改造するという企画でありました。 ところで、“スカイライン”という車は、アメリカ人が“フォード・マスタング”に対して思いつづける気持と同じように当時の若者の憧れの車でありました。 1963年に日本で初めて開かれた「第1回日本グランプリ」で、優勝候補といわれながら惨敗した「プリンス・スカイライン・スポーツ」の雪辱に燃えるプリンス自動車は、翌年の「第2回日本グランプリ」に、自前の“プリンス・スカイライン1500”のノーズを20cm延長し、1つ上のクラスである“プリンス・グロリア”に搭載されていた直列6気筒2000ccエンジンを無理やり搭載し、「プリンス・スカイライン2000GT(通称54−B)」として、当時の国際規約であった100台生産を達成して、グランド・ツーリングカークラスとして、日本グランプリにプリンスが送りこんだ“モンスター・マシン”でありました。ところが、式場壮吉ドライブの「ポルシェ904GTS」の参戦により、またも優勝を飾ることが出来なかった不運のマシンでありました。 しかし、若き日の我が“生沢徹”のスカイラインが、決勝レースの7周目に、なんと式場のポルシェを抜き去り、たった1周のことではありましたが、ホーム・ストレッチにトップで現われ観客の度肝を抜いたのでありました。 これが、後の「スカイライン伝説」を生むきっかけとなったことはあまりにも有名であります。 その後、スカイラインは、1968年の「第5回日本グランプリ」で、トヨタ1600GTに敗れるまでは、無敵を誇っておりました(伝説のニッサン・スカイライン2000GTRの登場は、1969年の「69年日本グランプリ」でありました)。 今回の作例は、1967年「第4回日本グランプリ」の前座レースでありました“ツーリング・カー・レース”において優勝した“横山達”選手の#95「プリンス・スカイライン2000GT(右の写真)」であります。 |
さて、再び「モデル・スピードライフ」からの製作記事を再現してみようと思います。
ー国産ツーリングカーレースを楽しもうー 第4回日本グランプリ ツーリングクラスで優勝した “三共製プラ模型を使った スカイライン2000GTの作り方” 第4回日本グランプリレースのツーリングカークラスで、スカイライン2000GT−Bが3台揃ってゴールして、他車を寄せ付けずゴールしたことです。ツーリングカークラスでは、他のサーキットレースにおいても、このスカイライン2000GTの右に出る車はありません。 街中でも比較的おとなしいスタイルの乗用車が、一種独特な力強いエキゾースト音を残して走る車を見れば、必ずプリンス・スカイライン2000GT−Bです。 ウサギの皮をかぶったオオカミ(・・・?!羊の間違いだと思われますが・・・)、ごく普通の乗用車ですが、中味のエンジンは違います。OHC 6気筒 レースカー専用のキャブレターのウェバーが3個も付いています。この魅力あるスカイライン2000GTをモデルレーシングとしても、高性能の車に製作してみましょう。 <解説> ボディは三共ポリマ製(旧三共模型・・・ということは、1967年に社名変更したことになります!)1/24スカイライン2000GTのプラ模型組立キットが売られていますので、それを使用いたします。 このモデルは一代前の’65、’66年型のラジエタ―グリルになっていますが、GT独特の長いボンネットと正確なボディラインを持っておりますので、実感は十分に出すことが出来るでしょう。 レーシングカーとして製作するには、高性能のシャーシーをセットにしなければなりません。そこでタミヤ製A型シャーシーを選びました。 ツーリングカー製作にあたり一番大切なことは、走行性能と共に、モデルカーとしての実車に対しての実感を出すように、塗装・仕上げが大切です。街中に一走り出れば、このようなツーリングカーが走り、これらの車を改良してサーキットでレース、ハイスピードジムカーナと身近に見られる車だけに、他のクラスのモデルカーレーシングよりも製作には注意しなければなりません。 このスカイラインGTの他に、ブルーバードも面白いと思います。他のクラウン、セドリックと入手できるツーリングカーのボディがあります。 レーシングカーの好きな方の中には、必ずツーリングカーを行ってみたいと思っている人もあると思います。フォーミュラクラス、GTクラス、ストックカークラスとは別に、このようなツーリングカークラスも一種独特の走行性と味があると考えますので、マンネリ化したレーシングカーの中に、新しいクラスがこのツーリングカークラスだと思います。 これから先、他のクラスの車の製作と共に、ツーリングカーの製作には入ろうではないですか、サーキット場でおおいに走らせましょう。 |
“製作解説”
● ボディを組立てる前に、必ずボディ本体を塗装することです。これは、マルサンのスプレーラッカーの赤で塗りました。他に窓枠、メッキ部などを塗ります。ラジエタ―グリルは黒のつや消しで塗りました。 他にドライバー、これはレーシング用の他社のものを使用します。写真の各部品をレーシング用ボディとして組立てます。 ● シャーシー部品。タミヤ製A型シャーシーを使用、マブチFT−36Dモーター、スピードホイール前輪用、後輪用、クライマックス製前輪ハードタイヤ、ゴーセン製スポンジタイヤ、ゴーセン製34枚歯クラウンギヤ、青柳製55mmシャフトなどを準備します(下の画像左参照)。 ● タイヤを切り落とした後、タイヤの角をヤスリで削り、コーナーでの抵抗をスムーズにします。 ● スポンジの厚さはシャーシーをボディ内に入れ、シャーシーとボディの隙間の厚さにします。 タイヤがボディにあたらないよう、できるだけボディを低く取り付けるようにします。 ● 実車のムードを出すために、レーシングミラーを付けました。また、ゼッケンNo.デカールなどを必ず付けてください。 ゼッケンの#95および“T−II ”は角ゴシック体ですので、雑誌などを参考に書いてみましょう。 ゼッケンの丸は、デカールの丸を用いた方がきれいな円が得られます。デカールの丸を貼り、完全に乾いてから、次のことにかかってください。 #95の字体は原寸大の図からトレーシングペーパーに写し取り、その紙の裏側に濃い鉛筆で字体が隠れるように塗りつぶして、今度は表から字体の輪郭を鉛筆でなぞってください。するときれいに字がうつります。紺色でその輪郭内をきれいに塗りつぶすと出来上がりです。 同じように“T−II ”もおこない、左の“ヨコハマタイヤ”と右側の“BS”は大変小さいので、それらしく書いておいたほうが良いでしょう。
以上で、“伝説となったツーリングカーたち”を終わらせていただきます。この中でも、三共模型製1/24「ニッサン・シルビア」と「プリンス・スカイライン2000GT」は、現在も含めて1/24スケールでは、唯一のモデル化であり、良き時代の個性溢れるデザインを上手く再現していた傑作でありました。
(おわり)
御意見・御感想お待ちしております。
(C) 18/JAN/2000 By Hirofumi Makino
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